「簡単な作業」について

「簡単な作業」について

2015年 10月号

専門技術を持つエンジニアの作業を見ていると時々、とても複雑で難解なことをいとも簡単に行っているように見受けられます。一般の人から見ると「よくこんなことができるなぁ。」とか「頭の中は一体どうなっているんだろう。」とか関心することもあるかもしれません。エンジニアは豊富な経験や知識から卓越した作業の能力を積み上げています。また、事前にお客様の要求や問題の解決方法を徹底的に調べ上げて、必要となる事項を頭の中に入れて作業に臨んでおります。

しかし、エンジニアの作業を少し理解すると、いろいろなことを簡単にこなしてしまうエンジニアに対して「なんでこんなことができないのだろう。」とか「これくらい簡単だろう。」とか間違った感覚が生まれることがあります。テレビでスポーツ観戦をしているときにプロの選手に対してそのようなことを感じる時と同じような感覚です。そのスポーツの事を少し理解して、いつも見ているうちに、だんだんとそのような感覚になってきます。エンジニアと短期間で密にやり取りをしたり、一緒に打ち合わせや作業を行っているうちに私たちも徐々にそのような感覚になっていくのです。

そのようなこと自体は決して悪いことではありません。しかし、それが行きすぎると「こんなの簡単でしょ!すぐやってよ。」とか「簡単なはずだから、ついでにやってください。」とか「こんな簡単な作業なんだからタダでいいよね。」などということをエンジニアに言ってしまう人が出てきます。これが大きな問題になってしまうことがあります。つまり、お客様とエンジニアで認識が違うのです。ITエンジニアが開発中に処理する作業の一つ一つは例え簡単に見えても、そうではないのです。はっきり言って、一見簡単に見える作業のほとんどすべては難しい作業だと思った方が正しいくらいです。

エンジニアの作業というものは、手術中の外科医がメスを使うようなことなのです。ただ、ナイフで紙を切ることとは大違いなのです。それなのに、「自分でもできそうだ」とか、「簡単なはずだ」と思ってしまうのは、いかにITのことを知らないかということの現れです。もちろん、作業にあたってエンジニアがお客様の不安を与えないように「簡単にできます。」とか「すぐに完了する作業です。」とか言うことはあるかもしれませんが、それは意味があって使っている言葉なのです。やはり、お客様とエンジニアが相互に信頼して、尊重し合う関係でチームが構築されているとそこから良いITシステムが創り出されることになるのだろうと思います。